「介護老人保健施設」(以下、老健)と聞いてもあまりピンとこない方も多いのではないでしょうか?老健とは、在宅復帰を目指す方に向けたリハビリを目的とした施設です。
終身施設とされる「特別養護老人ホーム」(以下、特養)とどんな違いがあり、どのように選ぶのがよいか見ていきましょう。
まずは、以下の一覧で特色の違いを見ていきましょう。
特別養護老人ホーム | 介護老人保健施設 | |
医師 | いない | いる |
看護師 | いる | いる |
薬剤師 | いない | いる |
PT/OT/ST | いない(ことがほとんど) | いる |
受入れ対象者 | 要介護3以上 | 要介護1以上 |
費用 | ~15万程度 | ~15万程度 |
負担限度額制度 | 利用可 | 利用可 |
入居期限 | なし | あり(目安:3~6ヶ月) ※施設類型による |
医療保険の併用 | 可能 | 不可能 |
上記をまとめると、老健は特養と比較して
① 専門職に多様性があり、より医療ニーズ対応力が強い!
② 要介護1から受け入れ可能で、受入れ対象者が多い!
③ 入居期限が限られている!
④ 医療費が利用料に含まれる為、お薬代もかからない!
という事が言えます。
掛かる費用がほぼ同等な為、上記の①多職種と②対象者が広いという点については、圧倒的に老健のコスパが高い事が伺えます。
一方、③の入居期限があるについてですが、実はここは同じ老健でも事業所によって異なります。
老健は4つの類型に分かれていて、在宅復帰を積極的に行う施設とそうでない施設に分かれます。その類型は以下の4つです。
A基本型 B加算型 C在宅強化型 D超強化型
この中で、在所期限が最も厳しいのがD超強化型で、最も寛容なのがA基本型と言えます。
この4つの類型は、在宅復帰率や回転率、入所前後訪問、セラピストの数、要介護4・5の割合などの指標で管理されており、在宅復帰に向けた取り組みが行われていればいる程、点数が高くなり、より高い介護保険報酬をとれる仕組みになっています。
中でも、在宅復帰率と回転率の配点は2つの指標だけで90点満点中、40点を占める割合となっており、C在宅強化型やD超強化型を取得する老健は、それだけ、入退所が頻回に起こっている事になります。
つまり、A基本型やB加算型は、C在宅強化型やD超強化型に比べて一人当たりの在所期間に対して寛容で、3か月で強制的に退所させられるなんて事はほとんどありません。
以上の事から、老健での介護やリハビリを望む時は、目的にあわせて施設がどの類型を取得しているかを一つの指標にしましょう。
また、一時的な利用となるのが前提の老健ですが、老健を退所した後、どうしたいのかによっても選び方が異なります。
結論から言うと以下の通りです。
◆退所先=自宅・有料老人ホーム・グループホーム・サ高住 → 超強化型・在宅強化型
◆退所先=特養・病院・他の老健 → 基本型・加算型
これは、上記の在宅復帰率に退所先がカウントされるか否かで指標の維持ができるか否かが異なるからです。
なので、介護に困って一時的に老健での待機を選ぶ際も、その先、自身や家族が退所先をどうしたいのかゴールをはっきりさせた上で、それにあった類型の施設を選ぶと入居前の判定会議等でもすんなりと受入れをしていただけるでしょう。
例えば、「希望している有料やグループホームが見つかったけど、満床で数名の待機者がいる。すぐには入れないがちょっとの間だけ待てれば、、、」というケースの場合は、超強化型や在宅強化型で待機する事が望ましいと言えます。
それに対し、「100人待ちの特養を気長に待ちたい。」という方は、超強化型や在宅強化型ではいつになったら入れるかわからないという点で、長期滞在になる恐れがある、という理由で判定会議で対象外とされる事になります。その為、特養を退所先に考えているというケースでは、基本型や加算型での介護・リハビリを受ける事が適切な選び方と言えます。
※施設に入った後に退所する事を「施設側に悪い。。。」と考えられる方がいるようですが、老健の場合、「ずっとここにいたい!」と言われる事自体はうれしいでしょうが、社会的役割として「困る」のが本音なので、サバサバと退所についての相談はおこなって大丈夫です。
また、上記の表の④医療保険の併用ができない事も特筆すべき違いになります。
お薬代も他科受診も老健では基本施設側の負担となります。今風に言うとサブスク状態です。
よって、「ラッキーじゃん!」と思われがちですが、高価なお薬や定期的な他科受診が必要な方だと受入れに難色を示されます。これはシンプルに事業所の利益を削る材料となるからです。
老健への入所を考えている時は医師に相談し、不必要に出ているお薬などは速やかに減薬してもらい、施設側でお薬代がかからないようにしておくことも入所の際のテクニックとして覚えておくとよいでしょう。
現時点では20%程の施設が超強化型を取得していますが、ここ数年で急激にその数を伸ばしています。2024年報酬改定では、在宅復帰に取り組む施設をより評価する方針が出され、A基本型とD超強化型の基本報酬の差はより顕著に広がるので、今後、超強化型を目指す老健施設が増えてくることが予想されます。
しかし、その施設が、所属する法人の中でどのような理念を体系化するのかという与えられた役割によって目指す類型が決められているようなので、すぐに基本型がなくなるという事はないであろうと考えられます。
上記を頭の片隅において、上手に老健施設の一時利用を活用しましょう!